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嫉妬してるんだろ? 2

Auteur: 花室 芽苳
last update Dernière mise à jour: 2025-07-15 07:41:01

「とりあえず昼食――あ、主任はここでお弁当でしたよね?」

「ええ、私はお弁当だけれど横井《よこい》さんは食堂でしょう? 早く行かないと席が埋まっちゃうわよ」

私がこんな顔をしていれば、もっと横井さんに気を使わせてしまう。私は出来るだけ自然な笑顔で横井さんを見る。

横井さんは鞄から何か紙袋を取り出して机の上に置いたかと思うと、「よし!」と頷いて勢いよく椅子に座る。

「明日の朝用にパンを買ってきて正解でしたね! 今日のお昼はこれにしようっと!」

横井さんはそう言って私の方を見てニッと笑って見せる。どうしよう、彼女にまで気を使わせたくなかったのに。

「いいのよ、私は別に平気よ?」

「そんな作り物の笑顔は、平気って言わないんです。これは私がこうしたいからやっているだけの、ただの自己満足なので気にしないでください」

笑顔がやはりうまく作れていなかったのでしょうね。横井さんは水筒を取り出してカップに飲み物を注ぐとそっと私の手にあてる。

ああ、温かい……カップも、横井さんの優しさも。

「そんな顔して我慢しなくていいと思います。素直に言っちゃったほうが絶対いいですよ」

素直に、なんて簡単に言うけれど……私と御堂《みどう》の関係ではそれが結構難しくて。でもこの状態もそれなりに辛くて頭の中がグルグルしているの。

「……そんな事言ったら、今度こそ御堂に呆れられちゃうかもしれない」

彼女の優しさに甘えて、ポツリと出てくる私の本音。本当の私は御堂に愛想をつかされることがとても怖いのよ。

「それなら――――」

横井《よこい》さんが何かを言いかけた時、オフィスの扉がやや乱暴に開かれる。すると御堂《みどう》とその周りを囲む女性社員達がバタバタとオフィス内に入って来た。

「えー? 御堂さんもう仕事しなきゃダメなんですかー?」

「ごめんな、今週締め切りの仕事が多くてね。なるべく今日中にいくつか終わらせておきたいんだよ」

御堂が仕事を始めようとしても、女性社員達は一向に引き下がらず彼に話しかけている。そんな彼女らに御堂は変わらず優しそうな笑顔を向けていて……

ジッと彼等を見ていると、御堂がこちらを見てニヤリと笑って見せた。女性社員に対する笑顔とは明らかに違うシニカルなその表情。私ばっかりがモヤモヤしているようで悔しい……

「別に、これくらいどうってこ
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